セイレーン
SIREN
COCA-13571
'96年8月1日発売
日本コロムビア
(TESLAKITE)
1. 電光浴-1 |
タイにインスパイアされた第2弾アルバム。似非(シミュレイテッド)ワールド・ミュージック的作風は、ここで早くも完成をみる。タイの人魚(マーメイド/セイレーン)伝説をモチーフに、神としてのアンドロギュノス的存在など、神話的世界を描写。東洋的世界と西洋的世界、ナチュラルとテクノロジーといった対立概念を統合していく。
『舟』という作品をもって新生 P-MODELを旅立たせた平沢進。彼が航海途上で出会ったのが『SIREN』である。セイレーン。美しい歌声で舟乗りたちをさそい、難破に至らしめる海の女神。音楽家はそこに深いものを聴き、自らの歌に変えた。あやうい世界のこと。希望のありかのこと。ひょっとしたら音楽の誘惑にのり続けている自分のこと...。これは、サイレン鳴り響くこの街の神話でもあるのだ。
サササッと動く月光仮面のような平沢進が狭いニッポンに鳴り響かせる勇壮な音楽。まるで内面を失ってしまったかのように平沢は進む。悠々と。
「SIREN」は70年代の前衛音楽だった「ジャーマン・イクスペリメンタル・ミュージック」をAOR化しようという果敢な試みだ。DJカルチャーの浸透とともに90年代の日本のアンダーグラウンド・ミュージックは天変地異を起こしつつある。地下がこれだけ変化しているのだから地上だって一変したっていい、平沢進のソロ・アルバムは「そう」言っているようだ。大陸的な衝動と、そして鹿鳴館時代へのノスタルジーを大爆発させながら。
平沢進氏は、<デジタル>と言うものを目的でなく、オーディエンスやリスナーとの距離や時間を縮め、時間や空間を共有するための道具として考えている、数少ないアーティストである。彼の作品は、僕らに対して何かを問いかけ、一緒に追及していこうという、インタラクティブなニオイを感じるのだが、今回の作品も例に漏れない。この作品をクールで暖かいという奇妙で絶妙な良作に仕上げた、彼の舵とりに拍手を送りたい。
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